サロン経営者の頭を悩ませる、尽きることのない「人材」の問題。高い費用をかけて求人広告を出し、ようやく採用にこぎつけた期待の新人。しかし、数ヶ月も経たないうちに「辞めたい」と告げられてしまう…。そんな経験に、心を痛めているオーナー様は少なくないでしょう。
多くの経営者が、この問題を「最近の若い子は根性がない」「エステティシャンという仕事への理解が足りない」といった、個人の資質のせいにしてしまいがちです。しかし、本当にそうでしょうか。優秀な人材が集まらず、定着しない根本的な原因は、実はサロン側の「仕組み」、特にスタッフの生活とモチベーションに直結する「給与制度」と「シフト設計」にあるケースがほとんどなのです。
この記事では、求人応募の段階で「ここで働きたい!」と強く思わせ、入社後も「このサロンでずっと成長したい!」とスタッフが心から願うような、魅力的なサロン作りの秘訣を徹底解説します。単なる求人票の書き方テクニックではありません。離職を防ぎ、スタッフとサロンが共に成長していくための、本質的な給与制度とシフト設計のコツを具体的にお伝えします。

なぜあなたのサロンから人が去っていくのか?3つの根本原因
問題を解決するためには、まずその原因を正しく理解する必要があります。エステティシャンが離職を決意する背景には、主に3つの大きな不満が隠されています。
原因1:給与への不満と将来への不安
「毎日こんなに頑張っているのに、お給料が全然上がらない」「インセンティブの基準が曖昧で、何を目指せばいいのか分からない」「売上ノルマのプレッシャーが辛い」。これは、離職理由として常に上位に挙がる最も深刻な問題です。自分の技術や貢献が正当に評価され、給与として還元されていないと感じた時、エステティシャンのモチベーションは著しく低下します。生活の安定がなければ、仕事への情熱も続きません。
原因2:不規則な働き方とプライベートの犠牲
エステ業界は、お客様の都合に合わせるため、土日祝日の勤務や夜遅くまでの営業が当たり前とされがちです。「休憩時間がほとんど取れない」「希望休が全く通らない」「友達や家族との時間が作れない」。心身をすり減らすような働き方が続けば、どれだけ仕事が好きでも、いずれ限界が訪れます。「このままでは自分の人生がダメになる」と感じた時、スタッフはサロンを去る決断をします。
原因3:キャリアパスの欠如と成長の停滞
「このサロンにいても、技術的に成長できる気がしない」「3年後、5年後、自分がどうなっているのか全く想像できない」。給与や休日といった待遇面だけでなく、「エステティシャンとしてどう成長していけるか」というキャリアの展望も、定着を左右する重要な要素です。明確な目標やステップアップの道筋が見えなければ、向上心のあるスタッフほど早く見切りをつけ、成長できる環境を求めて別のサロンへと移ってしまいます。
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【採用編】優秀な人材から「選ばれる」求人票の作り方
これらの不満を解消する仕組み作りが、定着率向上の鍵です。そして、その魅力を求人票で余すことなく伝えることが、採用成功の第一歩となります。
「ここで働きたい!」と思わせる給与・待遇の提示方法
求職者が最も注目する項目です。正直に、そして具体的に記載しましょう。
NG例
「月給18万円~ ※経験・能力を考慮」「歩合あり」
→ これでは、自分の将来の収入が全くイメージできません。
OK例
【給与】月給21万円~35万円 + 各種インセンティブ
※固定残業代なし。残業代は1分単位で別途支給。
【給与モデル】
・入社2年目/エステティシャン:月収28万円(月給23万円+指名料+物販手当)
・入社4年目/チーフ:月収36万円(月給28万円+役職手当+店舗売上達成金)
→ 具体的なモデルケースを示すことで、求職者は自分のキャリアと収入を現実的に描くことができます。
「働きやすさ」が伝わる休日・シフト表記の具体例
ワークライフバランスを重視する求職者にとって、休日の取りやすさは給与と同等に重要です。
NG例
「シフト制」「週休2日」
→ これでは、希望休が通るのか、連休が取れるのか分かりません。
OK例
【休日】完全週休2日制(シフト制/月8~9日休み)
※希望休は月3日まで提出可。月1回は土日休みも取得可能です。
【長期休暇】夏季休暇(3日)、年末年始休暇(5日)、有給休暇、慶弔休暇
【年間休日115日】
→ 年間休日数や長期休暇の日数を具体的に示すことで、「プライベートも大切にできる」という安心感が伝わります。
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【定着編】離職を防ぐ給与制度とシフト設計の具体策
魅力的な求人票で採用した人材に、長く活躍してもらうための制度設計を深掘りします。
モチベーションとチームワークを高める給与制度
スタッフの頑張りを正当に評価し、成長を促す給与体系を構築しましょう。
- 安心の土台となる「基本給」
まず、地域の同業種の給与水準を調査し、それを下回らない基本給を設定します。これがスタッフの生活を守るセーフティネットになります。 - 個人のがんばりを評価する「個人インセンティブ」
個人売上インセンティブ:売上目標の達成率に応じて数%を還元。最も分かりやすく、モチベーションに直結します。
指名料インセンティブ:お客様からの指名1件につき〇円、または指名料の〇%を還元。顧客満足度向上の指標になります。
物販インセンティブ:販売額の〇%を還元。お客様への提案力を評価します。 - チームワークを醸成する「店舗インセンティブ」
店舗売上目標達成インセンティブ:店舗全体の売上目標を達成した場合、スタッフ全員に一定額を支給。個人プレーに走るのを防ぎ、協力体制を生み出します。
重要なのは、これらのインセンティブの「評価基準」と「還元率」を誰もが分かるように明確化し、給与明細にも項目を分けて記載することです。透明性の高い評価制度が、信頼関係の基礎となります。
心身の健康を守り、生産性を上げるシフト設計
無理のない働き方は、スタッフの健康を守るだけでなく、施術パフォーマンスの向上、ひいては顧客満足度にもつながります。
- 休憩時間を「聖域」にする
予約スケジュールを詰め込みすぎず、スタッフが必ず1時間の休憩を確保できる体制を構築します。電話番や雑務に追われることのないよう、スタッフルームを分け、しっかりと心身を休ませることが重要です。 - 多様な働き方を認める
フルタイムの正社員だけでなく、「時短正社員制度」や「週3日からのパート勤務」など、結婚や出産といったライフステージの変化に対応できる柔軟な雇用形態を用意します。これにより、経験豊富なスタッフがキャリアを諦めることなく働き続けることができます。 - 公平な希望休のルールを作る
「希望休は月〇日まで」「土日の希望は一人月〇回まで」「提出締切は〇日まで」といったルールを明確にし、全スタッフに周知徹底します。特定のスタッフに負担が偏らないよう、オーナーが責任を持って調整することが求められます。

【育成編】「このサロンで成長したい」と思わせるキャリア支援
待遇面だけでなく、プロとして成長できる環境を提供することが、優秀な人材の流出を防ぐ最後の砦となります。
明確なキャリアステップの提示
「エステティシャン → チーフ → 副店長 → 店長」といったキャリアパスと、それぞれの役職の役割、責任、そして給与テーブルを明確に示します。これにより、スタッフは将来の自分を想像し、目標を持って日々の業務に取り組むことができます。
スキルアップと人間的成長のサポート
定期的な技術研修や理論の勉強会はもちろん、外部セミナーへの参加費用補助や資格取得支援制度を設けることで、スタッフの学習意欲をサポートします。また、技術だけでなく、お客様への提案力やコミュニケーション能力を高めるためのトレーニングも重要です。
定期的な1on1面談の実施
月に一度、15分でも良いので、オーナーとスタッフが1対1で話す時間を設けましょう。仕事の悩みや将来のキャリアについて話し合うことで、不満の芽を早期に発見し、解消することができます。この地道なコミュニケーションが、スタッフの孤独感を和らげ、エンゲージメントを高めます。
まとめ:最高の求人は「スタッフが辞めないサロン」そのもの
フェイシャルエステの求人競争を勝ち抜き、優秀な人材に長く活躍してもらうための鍵は、小手先の求人テクニックにあるのではありません。それは、「スタッフを大切にする」というオーナーの揺るぎない姿勢と、それを具現化した制度設計にあります。
スタッフの頑張りに報いる透明な給与制度。心と身体の健康を守るシフト。そして、プロとして成長し続けられる未来への展望。これらが揃ったとき、あなたのサロンは求人広告に頼らずとも、「あそこで働きたい」と噂されるような、魅力的な職場になっているはずです。
スタッフの満足度は、必ずお客様の満足度に反映されます。スタッフを大切にすることは、最高の顧客サービスであり、サロンの未来を創る最も確実な投資なのです。
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