「お客様に喜んでほしいから、この価格で頑張ろう」「開業時に決めた料金を、なんとなく今まで続けている」…誠実なサロンオーナーであるほど、自店の価格設定に自信が持てず、常に「これでいいのだろうか?」という漠然とした不安を抱えているものです。
フェイシャルエステの価格設定は、サロン経営の根幹を揺るがす最重要事項です。しかし、その基準となる「相場」を知らないまま、感覚だけで料金を決めてしまうと、二つの大きな落とし穴にはまります。
一つは、価値ある技術を安売りしてしまい、利益が出ずに疲弊してしまう「安すぎる」罠。
もう一つは、地域の顧客層や競合の状況からかけ離れた価格を設定し、お客様から選ばれなくなる「高すぎる」罠です。
あなたのサロンの価値を正しくお客様に伝え、持続可能な経営を実現するためには、客観的な「相場観」という羅針盤が不可欠です。
本記事では、多くの経営者が気になる「都内と郊外の価格差」の背景を深掘りし、その上で自サロンに最適な価格を設定するための具体的な実務手順を3ステップで解説します。この記事を最後まで読めば、価格への迷いが消え、自信を持ってお客様に料金を提示できるようになるでしょう。

なぜ、フェイシャルエステの「相場」を知る必要があるのか?
価格設定の実務に入る前に、なぜ相場観を養うことが重要なのか、その理由を3つの側面から理解しておきましょう。
- 客観的な自店のポジションを把握するため
相場は、市場という地図の中での現在地を示してくれます。自サロンが「高級路線」なのか「コストパフォーマンス重視」なのか、その立ち位置を客観的に把握することで、今後のブランディングや集客戦略に一貫性が生まれます。 - お客様からの信頼を獲得するため
お客様は、無意識のうちに様々なサロンの価格を比較しています。相場から大きく逸脱した価格は、「なぜこんなに高いの?」「安すぎて逆に不安…」といった不信感につながりかねません。相場に基づいた価格設定は、お客様にとっての「安心材料」となるのです。 - 安易な価格競争を避けるため
相場を知らないと、近隣に安いサロンができた際に、つい焦って追随値下げをしてしまいがちです。しかし、相場観があれば「うちはこの技術とサービスで、この価格帯が適正」という軸がぶれません。価格ではなく「価値」で勝負するための土台となります。
【2025年最新】フェイシャルエステの料金相場を徹底分析
フェイシャルエステの相場は、施術内容や時間、サロンの形態によって大きく変動します。ここでは、一般的な目安となる料金相場を多角的に見ていきましょう。
施術内容別の料金相場(60分〜90分の場合)
- ベーシックケア(保湿・毛穴洗浄など):6,000円~12,000円
クレンジング、洗顔、基本的なマッサージ、保湿パックといった、肌質を問わず受けられる基本的なコースです。エステが初めてのお客様向けの入門メニューとして設定されることが多い価格帯です。 - エイジングケア(リフトアップ・たるみ改善など):12,000円~25,000円
専用の美容液導入や、リフトアップ効果の高いハンドテクニック、デコルテまでのマッサージなど、年齢による悩みに特化したコース。使用する商材や技術の専門性が高まるため、価格も上がります。 - ハイスペック機器使用(HIFU・光フェイシャルなど):18,000円~35,000円
高額な業務用エステ機器を使用する施術です。機器の導入コストが価格に反映されるため、最も高価格帯になります。しかし、その分、即効性や高い効果を求めるお客様からの需要があります。 - お悩み特化ケア(ニキビケア・美白など):8,000円~18,000円
特定の肌悩みに焦点を当てたコース。ポレーション導入や特定のパックなど、悩みに合わせた商材や手技が加わります。
サロン形態別の料金相場
- 個人サロン:6,000円~30,000円
価格帯が最も広いのが特徴です。自宅サロンなどでコストを抑え、リーズナブルな価格で提供するサロンもあれば、ゴッドハンドと呼ばれるようなオーナーの専門技術を武器に、高価格帯で運営するサロンもあります。 - 大手チェーンサロン:8,000円~20,000円(1回あたり)
比較的標準的な価格設定。ただし、初回は3,000円程度の非常に安い「体験価格」を提示し、来店後に高額なコース契約を勧めるビジネスモデルが主流です。 - ホテルスパ・クリニック併設サロン:20,000円~50,000円
施術そのものに加え、豪華な施設、上質なアメニティ、高いホスピタリティといった「非日常的な体験」が付加価値として価格に含まれます。医師の監修がある安心感も価格に反映されます。
合わせて読みたい記事はこちらから👇

都内 vs 郊外|地域によってなぜ相場が違うのか?
同じ施術内容でも、サロンが都心部にあるか郊外にあるかで、価格相場は大きく変わります。その背景を理解することで、自サロンのエリア特性に合った戦略が見えてきます。
都心部(銀座・表参道・新宿など)の価格相場と特徴
- 価格傾向
郊外に比べて2割~5割ほど高い傾向。 - 背景・理由
圧倒的に高い固定費
地価が高いため、テナント家賃が経営コストを大きく圧迫します。このコストが価格に転嫁されています。
高い所得層と美意識
周辺で働く人や居住者の所得水準が高く、美容への投資意欲も旺盛です。高価格でも「本物」を求める顧客層がターゲットとなります。
競争の激化と専門特化
サロンの数が非常に多いため、他店との差別化が必須。「小顔矯正専門」「ハーブピーリング特化」など、ニッチな分野で専門性を高め、高単価を実現する戦略が主流です。
郊外(住宅地エリア)の価格相場と特徴
- 価格傾向
都心部に比べてリーズナブルな傾向。 - 背景・理由
抑えられた固定費
家賃などの固定費が比較的安いため、その分を価格に反映させやすいです。
地域密着型の顧客層
メインターゲットは地域住民、特に主婦層などが多いです。日常的に通える「親近感」や「コストパフォーマンス」が重視される傾向にあります。
口コミと紹介が生命線
商圏が限られるため、リピーターの育成と、その方々からの紹介が経営の鍵を握ります。過度に高い価格は、リピートの障壁になり得ます。
気になる関連記事はこちらから👇

【実務手順】相場を基に自サロンの価格を決める3ステップ
市場の相場観をインプットしたら、いよいよ自サロンの価格設定です。以下の3ステップで、論理的に最適な価格を導き出しましょう。
ステップ1:自サロンの「損益分岐点」を計算する
相場を気にする前に、まず「この価格以上でなければ赤字になる」という最低ラインを把握します。これがすべての土台です。
- 1ヶ月の総コストを算出
家賃、人件費、水道光熱費、広告費などの「固定費」と、化粧品やリネン代などの「変動費」を全て合計します。 - 1ヶ月の最大施術可能時間を算出
営業日数と営業時間から、現実的に施術できる総時間を計算します。 - 時間あたりのコストを計算
「1ヶ月の総コスト ÷ 1ヶ月の最大施術可能時間」で、あなたのサロンの「1時間あたりの原価」が分かります。
この原価に、あなたが確保したい利益を上乗せしたものが、価格の最低ラインです。
ステップ2:自サロンの「ポジション」を明確にする
算出したコストと市場の相場を基に、あなたのサロンが市場でどのような立ち位置を目指すのかを決定します。
- 相場より高価格帯を目指す場合
「なぜ高いのか」を明確に言語化する必要があります。誰にも真似できない独自のハンド技術、最高級のオーガニック商材、マンツーマンでの徹底した肌質改善コンサルティングなど、「価格以上の価値」を顧客に提供できるか自問しましょう。 - 相場と同価格帯で勝負する場合
価格以外の差別化が重要になります。丁寧なカウンセリング、居心地の良い空間づくり、アフターフォローの手厚さなどで「同じ価格なら、あそこが良い」と思わせる工夫が必要です。 - 相場より低価格帯で提供する場合
なぜ安くできるのか、その理由が重要です。自宅サロンで固定費を抑えている、メニューを絞って効率化しているなど、安さの根拠を明確にしないと「安かろう悪かろう」のイメージを持たれてしまいます。
ステップ3:メニュー体系と最終価格を決定する
ポジションが決まったら、それに合わせてメニューを構成し、最終的な価格に落とし込みます。
- 主力メニューを決める
サロンの顔となる、最も自信のあるメニューを決め、それを軸に価格を設定します。 - 松竹梅の法則を導入する
お客様が選びやすいよう、3段階程度のコースを用意します。「お試し」「スタンダード」「プレミアム」といった形で、選択肢を提示しましょう。 - 初回体験価格を設定する
新規のお客様が来店するハードルを下げるために、お得な初回価格を設定するのは有効な戦略です。ただし、2回目以降の正規価格との差を大きくしすぎないように注意が必要です。

まとめ:相場は道しるべ。価格を決めるのは「あなたの価値」
フェイシャルエステの相場を知ることは、羅針盤を持って航海に出るようなものです。現在地を知り、目的地までの方角を定めるために、それは不可欠なツールです。
しかし、忘れてはならないのは、相場はあくまで「平均値」であり、「正解」ではないということです。最終的にあなたのサロンの価格を決めるのは、競合の価格表ではなく、あなた自身が提供できる技術、知識、おもてなし、そしてお客様を美しくしたいという情熱、その「価値」の総体です。
相場という客観的な指標をリスペクトしつつ、最後は自らの価値に自信と誇りを持って価格を決定する。その健全なバランス感覚こそが、愛され続けるサロンを創り上げるための鍵となるのです。
コメント